大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)1955号 判決

被告人 倉持忠三郎

〔抄 録〕

一、所論に対する判断に先き立ち、本件控訴の申立の適否について判断を示すこととする。

本件控訴の申立は、控訴申立書と題し、被告人倉持忠三郎に対する原判決に対し控訴する旨及び作成年月日がボールペンで記載され、同じくボールペンによる「右被告人本人」という記載の下に「倉持忠三郎」というゴム印を押し、その名下に「倉持」の印鑑が押されている書面によって行われたものであるところ、当審における事実取調の結果によると、右の「倉持忠三郎」というゴム印及び「倉持」の印鑑は被告人自身が押したものであるものの、右書面には被告人の署名がないことが認められる。

ところで、刑訴法三七四条によると、控訴をするには、申立書を差し出さなければならないのであるが、その法意は、控訴申立人が真正に作成した申立書によって控訴の意思内容を確認し、手続上これを明確にしようということにあるものと解される。したがって、右の控訴の意思を記載した申立書には、控訴申立人がこれを真正に作成したものであることを示すため作成名義人を正確に表示することを要するものといわなければならない。そして、刑訴法規上は、書類に作成名義人を表示する方法として、署名押印による方法又は記名押印による方法を特に定めている場合があるが、その他の書類について、刑訴規則六〇条は署名押印を要するものとし、これができない場合、同規則六一条は他人に代書させて押印又は指印し、代書者が署名押印することを要するものとしている。しかし、これは、主として、書類作成者の同一性を明らかにして過誤のないようにするため、可能な限り厳格な方式を要求したものであると解され、この方式に従わない書類をすべて無効とするのは相当でなく、刑事訴訟法規が当該訴訟行為につき書面を要するとした法意、当該訴訟行為の重要性、過誤の可能性を考慮してその書面の効力の有無を判断すべきである。本件控訴申立書は、被告人の署名がなく、記名押印の方法によって作成されているものであるから、刑訴規則六〇条に違反し違法であるが、右の氏名の記載はゴム印によるもので、その名下の押印と共に、作成名義人が真正に作成したものであることを表示する最も一般的な方法であって、過誤の可能性も少いものであり、刑訴法三七四条の法意からすると控訴の申立書としては右のような記名押印の方法によって作成名義人が表示されたものでも有効であるというべきである。したがって、右控訴申立書を差し出してした本件控訴の申立は適法である。

(龍岡 西村 福嶋)

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